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こうふの「はっこう」を訪ねて

キラキラ輝く宝石に触れて
自分でつくる「発光」体験

訪ねた場所 :
山梨ジュエリーミュージアム

文:小野民 写真:土屋誠

「日本有数のジュエリーのまち」ともいわれる甲府。かつては質の良い水晶が採掘され、やがて加工技術が発展して一大産地として知られるようになりました。そのなかで磨かれた専門分野をもったジュエリー関連会社が数多くあるのも特徴です。そんな「発光」の歴史や技術を知ることができる「山梨ジュエリーミュージアム」に、発酵兄妹の2人が見学&体験へ出かけました。

【話を聞いた人】
学芸員/若月千佳さん(以下、若月さん)

水晶から始まったジュエリーのまちの成り立ち

発酵妹

山梨ジュエリーミュージアム、実は初めて来ました。広々としていて、いろんな展示が見られるんですね。

若月さん

そうなんです。外から見えるのはミュージアムショップの部分なのですが、想像以上に広い! とよく驚かれます。
展示室はテーマごとに分かれていて火曜日(祝日の場合は翌日)以外はいつでもご覧いただけます。土日祝日には、「実演工房」、「体験工房」もぜひ見て、体験もしてほしいですね。
今回は特別に、先に「職人の流儀」のスペースで映像を見ましょうか。これは、山梨ジュエリーミュージアムが開館した2013年に制作したネックレスで、映像ではその制作工程を見られるんです。

天狗の葉団扇と紫水晶
「職人の流儀」でさまざまな人が関わる制作過程を映像で見ることができる
若月さん

デザイナー、研磨、貴金属などいろんな職人さんたちが近い距離にいるので、直接会って打ち合わせがしやすいんです。それは山梨ならではの特徴かもしれませんね。

では本来のルートに戻って展示室の入り口へ。ここでは山梨で採掘されていた水晶や、時代によって変化してきた加工の一端を見ることができます。

なんと縄文時代には、水晶で矢じりをつくっていたというから驚き!

山状水晶晶族(山梨大学所蔵)
およそ1500年前には水晶やメノウをみがいて、穴をあける加工が行われていました(山梨県立考古学博物館所蔵)
今から約170年前につくられた水晶玉。すべて手作りでつくられています(山梨大学所蔵)
若月さん

甲府は、第二次世界大戦時の空襲で面積の80%が焼けてしまったと言われています。ですから、ジュエリー産業も大きな痛手を負いました。

でも、いろいろなものが焼けてしまっても、ここには確かな「技術」があった。そのおかげで、進駐軍のおみやげとしてアクセサリーや水晶細工をたくさんつくって売ることができたので、再びジュエリー産業が盛んになりました。

外国人好みに、五重塔や蝶々が彫られた水晶。多様な技術が復興を支えました(学芸員私物)

歴史を知った後は、ジュエリーを加工するのに使う道具がずらりと並んだ展示や、ルビーやサファイアといったおなじみの宝石とその原石を展示したコーナー、企画展などを見学。見所がたくさんあって、この日お目当ての「体験」に到達するまでにもたっぷりと館内を堪能しました。

加工に使う道具の数々。彫刻で使うときに水をためておく木桶は今では生産されていません
原石と磨いた宝石がずらり。見比べられるのが楽しいと人気のコーナー
若月さん

バブル期が終わり、国内のジュエリーマーケットの規模も縮小しています。山梨でも職人さんたちの高齢化や担い手不足といった課題もありますが、それでも全国のジュエリー流通の2割は山梨を経由しているといわれているんです。

山梨にはジュエリー関連会社が1000社以上もあるといわれているんですよ。

発酵兄

1000社! 同じく山梨の顔としてワインがあるけれど、ワイナリーの数でいえば80くらいですからね。携わっている人や会社の多さを聞いて、想像以上に山梨は「発光している」じゃんって思いました。ジュエリーの産業が盛んだとは聞いていても、何も知らなかったなぁ。

発酵妹

彫刻をするときに木桶を使っているのを見られたのもよかったです。意外なところに、味噌づくりとの共通点があって驚きました。味噌を仕込む大きな木桶も今ではつくる職人さんがいないんですよ。木桶職人さんが山梨にいればなぁなんて夢も広がりますね。

土日に見学することができる実演工房。この日は20代の若手渡辺裕美さん(写真上)とベテランの伝統工芸士太田初夫さん(写真下)が、それぞれ作業していた
若月さん

楽しんでいただけてよかったです。では、お待ちかねの研磨体験に行きましょう!

自分で磨くと愛でたくなる初めてのジュエリー制作体験

若月さん

五味さんたちに体験していただくのは、「研磨体験」ですが、当館では「貴金属加工体験」も行っています。体験できることは日によって違うので、お問い合わせくださいね。

今日はそれぞれストラップとネックレスをつくるんですよね。まずは好きなものを選んでください。ほぼ完成に近いところまで仕上げてあるものです。

形や色が違う石の中からお気に入りを選ぶのも楽しい作業
発酵兄

けっこう種類がたくさんあるんですね。うーん悩む。娘のプレゼント用のネックレスなので、ピンク色のローズクオーツにします。

発酵妹

私は赤メノウのストラップにします。

若月さん

職人さんは直接石を持って研磨しますが、体験では初めての方でもできるように棒につけて体験します。

仕上げ磨き用の研磨剤をつけながら、回っている研磨盤の上で石をすべらせて整えていくんですが、触ってもケガをすることはないので安心してくださいね。

熱心に研磨している発酵兄妹の様子を指導してくれるのは、水晶彫刻一筋50年近くという太田初夫さん。

太田さん

もうちょっと手を近づけて。えんぴつを持つようにね。そうそう、その調子。

回転する盤の上に角度を変えながら石を押し当てていく
作業に没頭する発酵兄の手元
太田さん

お兄さん、なかなか手つきがいいねぇ

発酵兄

ありがとうございます! どうですか?師匠!

石の当てる場所を変えながら満遍なく輝くように研磨していき、太田さんに見せると……

太田さん

これだけ完璧なのは初めて見たよ。

お世辞なような気もしますが(笑)、この言葉に発酵兄はガッツポーズ。確かに普段繊細なこうじや味噌を扱っているだけに、手先が器用なのかも。

一目瞭然のbefore(右上)、after(左下)
完成品

最後にミュージアムショップでは、甲府商工会議所と山梨県水晶宝飾協同組合からなる山梨ジュエリープロジェクト委員会による山梨の産地ブランド「Koo-fu」のほか、ジュエリーの新ブランド「SIMPRICH」を見せていただきました。かわいいデザインが多くてキュンとします。

ジュエリーのまちらしい取り組みによって、若い人たちが手を伸ばしやすいブランドも誕生しています。

気軽に立ち寄れる場所ながら、さまざまな方向からジュエリーの、そして山梨の魅力を再発見することができたジュエリーミュージアム。キラキラとした発光に触れたくなったらまたふらりと訪ねてみたい穴場スポットでした。

山梨ジュエリーミュージアム

甲府市丸の内一丁目6番1号山梨県防災新館1階やまなしプラザ内
055-223-1570
10:00~17:30(入館は閉館時間の30分前まで)
火曜日休館(祝日の場合はその翌日)、年末年始、展示入替期間は休館
公式ホームページへ

やまなしジュエリーショップ
https://yja.or.jp/shop/
※山梨県水晶宝飾協同組合直営のアンテナショップでは、ここでしか買えないジュエリーの取り扱いもあります。

発酵兄妹

五味醤油の六代目の兄妹五味仁と洋子。家業のかたわら、「発酵兄妹」として発酵文化を楽しく広めるため奮闘中。今回のオンラインマルシェではナビゲーターを務める。