甲府で初めてのクラフトブルワリー「OUTSIDER BREWING(アウトサイダーブルーイング)」ができたのは2012年。元紳士服屋を改装して1階に醸造所、2階に直営店「Hops&Herbs(ホップス&ハーブス)をつくりました。クラフトビールを楽しむ土壌を醸してきた「アウトサイダー」な人たちは、どんな想いで「まちのビール屋さん」を営んできたのでしょうか。
【話を聞いた人】
オーナー/マーク・メジャーさん(以下:マークさん)
ブルワー/小林桃子さん(以下:小林さん)
マネージャー/山田勝さん(以下:山田さん)
甲府で飲食店を20年
かつては人で溢れた繁華街
今日はよろしくお願いします。Hops&Herbsには、特に県外からお客さんが来た時によく行くんですが、ちゃんと話を聞くのは初めてですね。ご近所でもあるから、自転車に乗っているマークさんはよく見かけていますが(笑)。
僕は目立つからね(笑)。
そもそも、アウトサイダーブルーイングを初めたきっかけは何だったんですか?
そもそも僕は、もう甲府に住んで22年になります。飲食店は2000年にやり始めて、駅前で3年くらい1つの店をやって、その後「THE VAULT」という店を始めて、ここはもう18年目です。
THE VAULTが開店して8年くらい経った頃、ビール好きな常連さんに「発泡酒免許が取りやすくなったからビールつくれば?」と言われて、いろいろ調べ始めたんです。
日本でクラフトビールといったら、観光地に多いんですよ。まちの中心にあるって珍しかったけど、ここでなら「お疲れさんの一杯」のために、毎日お客さんが来てくれるんじゃないかと思って。
その頃には、シャッターが閉まっている店が多くなっていたから、THE VAULTの他にもう1店舗あればはしごしてくれてお客さんが増えるかも、という考えもありました。
僕が初めて甲府に来たのは1990年で、すごくにぎわってたんですよ。繁華街は、渋谷ほどじゃないけど真っすぐ歩けないくらいの状態。サラリーマンがいっぱいいた。どんどんどんどん人が減って、店も減っていくのを見てきたから、あのにぎわいを復活したい気持ちがあります。
立ち上げを担った全国区のブルワー
バトンは新人ブルワーに託された
最初は、日本のクラフトビール業界では有名な丹羽智さんにつくってもらったんですけど、彼は7年ぐらいで辞めて。
今は、もともとHops&Herbsのホールで働いていた桃ちゃんが、ブルワーとして頑張っています。彼女のビールは、スパイスとかハーブ使うのが特徴かな。
丹羽さんをブルワーに迎える時に、ビールのオーダーはどのようにしたんですか?
6種類定番をつくってもらいました。
大手のビールが上面発酵でつくるラガーだから、クラフトビールでは下面発酵でつくるエールばかりつくる傾向があったと思う。当時はラガーをつくるクラフトブルワリーはそんなに多くなかった。
でも、クラフトビールを初めて飲む人にとっては、いきなりめっちゃ濃い黒ビールを飲めば、「わ、何だこりゃ」ってなっちゃいます。だから、ラガー1つ、苦みが強いIPA1つ、黒ビール1つは必ずつくりたい。
その他の3種類は相談して、ホップの香りが特徴のペールエールと、丹羽さんが得意な野生酵母でつくるベルジャントリペルが定番になりました。
今は、大体毎月1個〜2個限定ビールをつくっています。山梨の果物を中心に、日本の果物を使ったり、自分たちが飲みたいビールをつくってみたり。
桃ちゃんがトップになったときに2種類は残しつつ、新しいビールもつくっていこうということになったんです。
飲みに来ると毎回、悩みます。種類はいっぱいあるし、季節ごとに変わるので。
ずっと丹羽さんがやってて、小林さんが引き継ぐ時ってどういう気持ちだったんですか?
数年一緒に働いた後だったんですが、プレッシャーもありました。でも、自由にできるということでもあるから、楽しみな部分もありましたよ。
とはいえ、今でも苦手な分野もあるので、勉強し続けなくてはと思います。そして、今までつくったことのないスタイルのビールにも挑戦していきたいです。
クラフトビールを広め
山梨の食材を再発見する店
Hops&Herbsに友達を連れていくと、だいたいみんな飲み比べセットに大喜びします。6種類飲んで次の1杯を決めるんですけど、弱い人は結構酔っ払っちゃう(笑)。
飲み比べで終わるお客さんも、結構いますね。
最初は飲み比べセットはなかったんです。でもクラフトビールを初めて飲む人もいるし、勘で選んだものが好みじゃないと残念でしょう。それだけクラフトビールの味は幅広いから。
だから少量ずつ全部味見したら、必ず好みが見つけられると思う。「これがおいしいから次はこれにしよう」って頼んでくれたら嬉しいし、飲み比べをきっかけに自分の好きなスタイルを知ったら、次からも生かせるでしょう。
今でこそ何となくIPAとかピルスナーとかわかるけれど、いろんな種類がありますもんね。
大手の「のどごしすっきり」のビールを飲みなれていて、うちの黒ビールを飲んだらそりゃあ、こんな顔になりますよ(と言って渋い顔)。
あはは。
「普通のちょうだい」って言われちゃいます(笑)。
外国ではもっとクラフトビールが根付いていて、大手メーカーのビールが主流の店でも、大体クラフトビールの生が何種類かあるのがスタンダード。
日本はまだそうじゃないけど、「お疲れさんの一杯」でクラフトビール飲んでもらえればそれは一番嬉しいですよ。今はまだ、山梨でクラフトビールは特別感があって、当たり前にはなっていないと感じます。
でも、甲府には去年新しくペルソナブルワリーができたし、甲府市の山の方、下帯那町ではホップを栽培し始めていてそこにもブルワリーができる計画があるそうです。少しは定着してきたかな。
お! そうなんですね。すごく、楽しみ。
ビール文化はまだまだこれからですが、材料を調達する意味では山梨は恵まれていますか?
副原料は、手に入りやすいですね。ワイナリーさんからぶどうをいただいたりもします。
Hops&Herbsの料理も山梨県産のもの、山梨らしいものを大切にしています。ほうとうの麺を使ってパスタをつくったり、馬肉を使ったりね。
飲み物は最初はビールがほとんどだけだったけど、今は山梨県産のワインや日本酒もあります。
日本酒は頼んだことなかった! ブルワリーなのに懐が深い。
一番最初に甲府にできたブルワリーがアウトサイダーさんだったからこそ、今、ブルワリーが増えているんだと思います。他のブルワリーができることもすごく楽しみにしていて、ビールじゃなくてもメイドイン山梨のものを大事にしていて……。
自然と県外からのお客さんを連れて来ていたけど、そういう心地よさがあるから行きたくなるんだなと改めて思いました。
山梨ぎっしり
ブーケベルジャンウィット
さて、今回はっこうマルシェで買える「はっこうマルシェレジェンドセット」に入るアウトサイダーさんのビールについて教えてください。
うちの定番の「ブーケベルジャンウィット」というもので、アルコールは5%。南アルプス市で小麦を育ててもらっていて、その生の小麦を50%ぐらい使っています。ビールを発酵させる酵母も、山梨県産の桃から取った天然酵母を使っています。
めちゃめちゃ山梨県産ですね。
そうなんです。小麦が結構入っているので、少しとろみがあって、まろやかな感じになります。
桃の酵母で発酵させると、アプリコットみたいな甘い香りになるんですが、そこにカモミール、エルダーフラワー、ジュニパーベリーというハーブ3種類をブレンドして入れているので、甘みもありつつすっきりした味わいになっています。
うんうん、香りがすごいきた。
スムーズな口あたりも小麦ならでは。
これ、どんな食事に合わせせるのがおすすめですか?
白身魚にすごく合います。私も意外だったんですが、鯛の刺身にすごくぴったり。
普通におしょうゆで食べていいんですか?
はい、おしょうゆで。
レジェンドセットにおいしいおしょうゆも入っているから、あとはスーパーで刺身買ったらバッチリだ!
ご近所同士の味噌屋とブルワリー
発酵つながりで人の流れができる
最後に、これからのことを聞かせてください。
私は、2月に9周年を迎えたので限定醸造のビールをつくっていて、3月にそのお披露目をして、みなさんに喜んでもらえたらいいなぁと思っています。
2種類あって、「Hops&Herbs White」は、オーストラリアの先住民が愛したレモンマートルとオーストラリアンホップを使用してつくりました。ハーブの香りとホップの香りスッキリとした飲み口がバランスよく仕上がっています。
「Raspberry Imperial Stout」は、アルコール13%の濃ゆーいインペリアルスタウトにラズベリーピュレとカカオニブを入れてつくりました。甘酸っぱい香りと深い味わいが口いっぱいに広がります。
アウトサイダーブルーイングは、ビールマニアの人たちにはみんな知られてるけど、もっと一般の人にも名前が知られていくようにしたいです。
私もそうですね。特に、県内でも甲府を出るとまだ知名度が低いかなと思うので。ビール好きだけじゃなくて、雰囲気がいいから行きたいって人たちにも優しい店でありたい。気楽にお店に寄れるようにメニューも少しずつ変えてきました。
コロナ前は、確実にお客さんが増えて来たなというタイミングだったので、コロナ禍が過ぎたら、さらに広く親しまれる店にしていきたいです。
「地ビールフェスト甲府」は去年はコロナで中止になったんだけど、うちが参加してる全国各地のビール祭の中では一番大きい。東京のビール祭より多くの人が集まるんですよ。
そんなポテンシャルのあるビールフェストは、ゲストブルワリー2つをのぞけば、全部山梨のブルワリーでやっているんですよ。
客として行っても、すごく楽しいイベントです。
大阪の箕面ビールの若社長さんも、全国のビール祭りに参加しているけど「甲府が一番熱い」って言ってくれて、誇れる話だな、と。こういう状況になってきたのも、アウトサイダーブルーイングの力も大きいと思います。
五味醤油に来た県外のお客さんに「この後どこ行ったらいいですか?」ってよく聞かれるんです。お酒が好きな方だったら「すぐ行けるブルワリーありますよ」ってアウトサイダーブルーイングをおすすめすると喜ばれます。
味噌もビールも「発酵」だから、一緒に甲府のまちも盛り上げていきたいです。これからもどうぞよろしくお願いします!
アウトサイダーブルーイング
(2Fに直営ビアバー Hops&Herbs併設)
山梨県甲府市中央1-1-5ミヤザワビル
(月・水〜金)17:00〜0:00
(土・日)12:00〜0:00
火曜日定休
※営業情報はHops&Herbsのものです
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発酵兄妹
五味醤油の六代目の兄妹五味仁と洋子。家業のかたわら、「発酵兄妹」として発酵文化を楽しく広めるため奮闘中。今回のオンラインマルシェではナビゲーターを務める。