日本で初めて、本格的にフランスの品種を使ったワイン醸造に取り組んだサドヤワイナリー。甲府駅にほど近いワイナリーは、1917年の創業当時の面影とモダンな雰囲気が共存したすてきな空間です。醸造責任者の村松幸治さんが、サドヤのワインが生まれ熟成される場所を案内してくれました。
醸造所から日本ワインの歴史探訪へ
サドヤは1917年に創業しましたが、その当時の山梨県のワイン産業は、生食用に育てて余ったぶどうでつくるものでした。でも、創業者が、甲州ぶどうではなくてヨーロッパのワイン用の品種でワインをつくりたいと強く思っていたんです。
そこで、1936年には甲府に畑を開墾して、フランスから苗木を取り寄せて、本格的なワインをつくり始めたんです。
ではまず醸造所を案内しますね。
わぁ、屋根がうちの蔵と似ています。意外な共通点だ。
そうなんですね。創業時の建物は空襲で焼けてしまって、戦後建てられたものです。機械は最新のものも入れていますし、改装もしていますが、その頃からそのまま使い続けているものもいろいろとあるんですよ。
例えば、地下のワインが入っている「部屋」は戦前から残っているものです。今は主にステンレスのタンクを使っていますが、昔はすべて一階から原料を入れて、地下はなみなみとワインで満たされ部屋になっていたんです。
部屋の下には小さな扉がついていて、ワインを出したらそこから入って部屋を洗うんです。今も使っている部屋もあって、私もやっています(笑)。
もう使っていない部屋は博物館の展示スペースになっています。では地下に移動してみましょう。
地下は見学コースになっていて、サドヤの歴史やワインについての資料館になっていますが、同じ空間が貯蔵庫としても使われていて、私たちの普段の仕事場でもあります。
僕は初めて来たけど、すごくおもしろいですね。ぶどうの品種について知れたり、昔からの道具が見られたりするからワイン好きの友達を連れて来たら喜びそうです。
開墾当時、フランスから80品種くらいを持って帰ってきて、試行錯誤して赤はカベルネ・ソーヴィニヨン、白はセミヨンが定番になりました。
ぶどうの品種以外にもフランスからワイン醸造に使う機械を輸入したり、熟成する方法を取り入れたり、本場のいいところを甲府でのワイン醸造に生かしていくことにはずっと尽力してきました。樽熟成や、マグナムボトルで保存しておいしいワインをつくる方法も現地から学んできたものです。
ズラーッと並んだ樽は壮観ですね。
木樽に入れていると結構蒸発しちゃって、効率を考えたらできないですね。でも、おいしくなるしサドヤの伝統は受け継いでいきたいです。
人や地域のためと思える
ワインづくりの仕事
村松さんはどうしてサドヤワイナリーの醸造責任者になったんですか? やはりワインが大好きだったとか……。
ここに就職するまでは、ワインは全然飲んでなかったですね(笑)。東京で乳酸菌の研究をしていました。30歳を過ぎて8年前に甲府にUターンしてきて、縁あってここで働けることになったんです。
実は、実家がここから歩いて15秒くらいのところにあって……。
えぇ!? 15秒? 15分じゃなく。
はい(笑)。でも子どもの頃は「歴史あるワイナリーがある」という認識はしていなくて。入社してからすごく重要な場所だったんだと知って、今ではワインもよく飲むようになりました。
自分が生まれ育った甲府で、人の役に立てるような仕事ができたら人生楽しいだろうなって漠然と考えていましたが、サドヤで働いてその実感が持てているのは嬉しいことです。
いい話ですね。偶然私が実家に帰ってきたのとも同じ時期ですし、共感します。
サドヤさんのワインは、昔から母方の実家で親戚が集るときに必ずありました。一升瓶ワインが定番で、コップで乾杯。今思えばその組み合わせって山梨らしいですね。
そうそう、めでたい日はサドヤさんのワインを飲むもんだと思ってました。
それは嬉しいですね。
今日は、子どもの頃から見ていた、おなじみのワインの歴史や製造現場が見られてすごく嬉しかったです。
甲府農場に植えられているカベルネ・ソーヴィニヨンやセミヨンは、どのワインに使われているんですか?
サドヤの看板商品である、「シャトーブリアン」に関しては、赤はカベルネ・ソーヴィニヨン、白はセミヨンを使っています。どちらも甲府の農場で収穫したものです。
セミヨンって知らなかった品種なんですけど、どういう特徴があるんですか?
くせがないので、優しく樽の香りをつけてあげたり、年月を経て優しい熟成の香りがするということが楽しめます。香りが強すぎると食事に合わせづらいこともありますが、主張が強くないからこそ食事を引き立たせるワインなのかなと思います。
特徴を聞くと甲州っぽくもありますね。
そうですね。ただ甲州はさっぱりしているけれど、セミヨンに関しては非常に厚みがある味だという違いがあります。
厳しい環境で育ったぶどうが
甲府 Sparkling 甲州2020 をおいしく
今回、発売するはっこうマルシェスペシャルBOXに「信玄公生誕500年記念セット」があって、その中にはサドヤさんの「甲府 Sparkling 甲州2020」が入っています。このワインの特徴を教えてくれますか?
5年前から、甲府市と山梨大学と一緒に取り組んでいるワインです。酵母は初回から同じものを使っているのですが、甲府の武田神社のお堀から採取したものなんですよ。
今年は、梅雨の長雨が続いて収量が1/3だった、なんて話も農家さんに聞きました。
このワインに使う甲州種のぶどうは、JA甲府市さんを通して甲府のあちこちの畑から集まるんですが、今年はとても厳しい年で全滅してしまった畑もあったと聞きます。
でも、8月になってから天気が良くて糖度も上がって、いい状態で収穫できたぶどうが入ってきました。結果としてはいつもよりふくよかな感じになりました。香りもしっかりあって、爽やかな酸味がしっかりあって、非常においしいワインになったかなと思っています。
できあがったスパークリングワインはどんなお料理に合いそうですか?
甲州はさっぱりしたものと合わせるのがいいと思いますので、塩をふった山菜の天ぷらなんかはすごく合いそうです。あと、焼き鳥もいいかもしれません。
天ぷらいいですね!山梨の人って「ワインに合わせるものは?」と聞くと和食が返ってくるので、試しやすいです。
そうだね。「なんとかのテリーヌ」とか言われたら困っちゃうもんなぁ(笑)。
難しいことを考えず、おいしく飲んでくれれば嬉しいですね。特にこのスパークリングはお祝いのワインなので、楽しく乾杯するときに使ってもらいたいです。
仕込み時期は休みなし
プクプク生きてる酵母のお世話
村松さんは前職では乳酸菌を研究していて、「微生物が好き」っておっしゃってたじゃないですか。どういうところに魅力を感じるんですか?
ぶどうを搾った果汁からワインになっていく過程で、微生物が元気にしているかな、疲れているかな、弱っているかな、となんとなく感じながら仕事ができるのがおもしろいんです。
僕たちも麹をつくるから麹菌を扱っているわけだけど、見えないけど「人っぽい」と感じます。弱ってるのもすぐ分かるし、めっちゃモコモコして、元気だな、今が一番いい時だなって瞬間があるし。
発酵が弱くなってくると、大丈夫かなって心配になってきますよね。何か手伝えないかな?って微生物に対して思いますね。
そうそう、まず混ぜてあげようかな、みたいな。
香りによって、もしかしたら果汁の中に少し栄養が足りないかもしれないときは外から少し栄養を加えてあげたりとか、いろんなケアの方法があるので、タイミングを見計らってやっていますね。
ワインをつくっているって、本当に生き物を育てているような感じですね。
そうそう、そうです。ぶどうの収穫期の9月10月はどんどん収穫されたぶどうがやってきて、次々に仕込んでいくんですが、やっぱりその時期が一番楽しい。2カ月間休みがないくらいだけど、一番幸せな時間なんです。
すごくすてきですね。
人間の赤ちゃんを考えても、新生児って大変だけどかわいい。収穫期の仕込みの忙しさはそんな感じなのかもしれませんね。
そうですね。家も近いので休みの日でもすぐに会社に来ちゃって。頻繁に元気にやっているかチェックしています。
それに、醸造所があるこの敷地の雰囲気が、働いていてとても気持ちいいんです。多くの人にぜひここに来てもらって、地下の見学、レストランやショップなども含めて味わってみてほしいです。
SADOYA WINERY
山梨県甲府市北口3丁目3-24
(ワインショップ)10:00〜15:00(年末年始のみ休業)
※その他、見学(要予約)、レストランの営業時間などはHPを参照ください。
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発酵兄妹
五味醤油の六代目の兄妹五味仁と洋子。家業のかたわら、「発酵兄妹」として発酵文化を楽しく広めるため奮闘中。今回のオンラインマルシェではナビゲーターを務める。