こうふの「はっこう」を訪ねて

ロマンの出発点へ
EXILE SHOKICHIさんが甲府のワインの魅力を味わう

訪ねた場所 :
山梨大学大学院 総合研究部附属 ワイン科学研究センター

文:福井晶 写真:西希

日々、愛するワインへの造詣を深め、自身の出身地である北海道ではワイン醸造にも関わっているEXILE SHOKICHIさん。酵母の研究をおこなう柳田教授の元を訪ね、甲府自慢のワインで乾杯。日本で唯一、果実酒を専門に研究するワイン科学研究センターで、ワイン談義に花を咲かせました。

EXILE SHOKICHI

【ゲスト】
EXILE、EXILE THE SECONDのボーカル&パフォーマー、ソロシンガー。北海道文化放送(UHB)「EXILE TRIBE 男旅」では、北海道余市・仁木のワイン醸造家に学び、醸造も経験。「ワインは音楽の勉強」とも語る。

山梨大学教授 柳田藤寿

【案内する人】
山梨大学教授 柳田藤寿。
国産ワインコンクール審査員も勤め、甲府開府500年を記念したスパークリングワイン〈甲府 Sparkling 甲州 2020〉の開発にも携わる。甲府ワインのエキスパート。

ワインを研究して75年以上
先人の結晶が地下にひしめく

SHOKICHIさん

やっと、日本ワインのはじまりの地に来れました!すごく楽しみです。

柳田教授

ようこそ、甲府市へ。山梨大学のワイン科学研究センターでワインの歴史を感じながら、甲府自慢のワインを味わってください。まずは少しセンター内をご案内しましょう。

柳田教授

ワイン科学研究センターは、1947年(昭和22年)に当時の大蔵大臣だった石橋湛山氏の尽力で、「醗酵研究所」として誕生しました。そののちに山梨大学が創立し研究機関として引き継がれて今に至るので、75年以上もの間ワインやブランデーなどを研究していますね。

SHOKICHIさん

そんなに前から日本にもワインを研究する施設があるんですね。

柳田教授

そうなんです。この地下は防空壕の跡地で、研究のためにつくられたワインやポートワインを大量に貯蔵しています。

柳田教授

ここはポートワインやブランデーの貯蔵庫です。

SHOKICHIさん

あ〜、いい香りですね。たまらないなぁ。

柳田教授

ほとんど動かさず大切に保管されていて、なかなか手に入らない年代物もあります。SHOKICHIさんが生まれた年のものもあります。

SHOKICHIさん

すごい。地下には何本くらいのワインやブランデーがあるんですか?

柳田教授

う〜ん、本数でいうと3万5000本くらいかなぁ?

SHOKICHIさん

これが山梨県……!こんなにすごい場所があるなんて衝撃です。

柳田教授

ここは、ワイン好きでもなかなか来られない、貴重な場所ですからね。

柳田教授

うちの学生が作るワインは保存の兼ね合いもあり、ほとんどブランデーにしてしまうのですが、それでも毎年、一定数は貯蔵するようにしています。だから、どんどん増えていってしまうんです。

SHOKICHIさん

なるほど。だから、こんなに立派な貯蔵庫が必要になるんですね。でも、こんなにたくさんのお酒、どうするんですか?

柳田教授

研究などに使います。そういう意味では、ここにあるのって、誰も入手できないお酒ばかりなんですよ。

SHOKICHIさん

え〜、夢があるなぁ〜!

柳田教授

これは1950年の甲州ワイン。70年以上前のものなんて、本当に手に入らないですよ。

SHOKICHIさん

え、ちょっと写真撮りたいです。さっきから予想のはるか上を行きすぎて、ヤバいしか言えない。

オール甲府市産のワインで乾杯!
酵母を見つけるってどういうこと?

柳田教授

ロゼのスパークリングを用意していますが、シャンパングラスでいいですか?

SHOKICHIさん

香りを楽しみたいので、ワイングラスでお願いしてもいいですか?

柳田教授

もちろん、そのほうがいいかもしれない。
では、乾杯!
見学してみて、いかがでしたか?

SHOKICHIさん

最近、僕の地元の北海道もワインが面白くなってきているんですけど、山梨には歴史を感じました。日本ワインの誕生は1870年。この街から、日本のワインの歴史が始まったんだと思うと感慨深いです。ワイン好きとしては、この地を踏めたのが嬉しくてしかたない。

柳田教授

ふふふ。

SHOKICHIさん

僕、今年飲んだ本数をいえないくらい、普段からたくさんワインを飲むんです。甲府のワインも好きでよく飲むのですが、現地に来るとやっぱり違いますね。地下カーブもすごくて、もっと山梨のことを知らなくてはいけないなと思いました。このあともワイナリー見学へ行く予定なので、今日からちゃんと勉強しないと。

柳田教授

山梨県には80箇所以上のワイナリーが点在していて、甲府市内にあるのは「SADOYAワイナリー」「シャトー酒折」「信玄ワイン」「ドメーヌQ」の4箇所です。今飲んでいただいているのが、私も開発に携わったドメーヌQの「甲府ロゼスパークリング2021」。このあと、シャトー酒折の「甲州ドライ」もご用意しています。

SHOKICHIさん

どちらも初めて飲みます。めちゃくちゃ楽しみです。

柳田教授

甲府のワインは地元で消費して、県外に出回らないものも多いですからね。「甲府ロゼスパークリング2021」は12月に出たばかり。数量限定で3500本しかつくっておらず、一瞬にして売れてしまうので、知らないのも無理ありません。

柳田教授

いかがですか?

SHOKICHIさん

いいですね。フルーティですごく飲みやすい。

柳田教授

甲府市産ブドウ100%使用で、果皮と果汁を一緒に低温でじっくり醸し発酵。甲州ワインの爽やかさに奥行きを生み出しています。

SHOKICHIさん

心地よい酸味で、のどごしもいいですね。

柳田教授

そうですね。食事にも合わせやすいので、食中酒にもなります。

柳田教授

このスパークリングワインは、2019年に開府500年を記念してつくった赤・白のワインと同じく、甲府市で採取した酵母を使っていて、オール甲府市産です。酵母は、私が武田信玄が祀られる武田神社のお堀から見つけました。

SHOKICHIさん

酵母という言葉はワインを飲む中でもよく聞くのですが、酵母を見つけるって、どういうことですか?

柳田教授

酵母は空気中にもいる菌のことです。私たちは研究の一環として、海や幻の富士六湖(※)で採取した酵母で、ワインやヨーグルトなどの商品を作り出しています。酵母を探してきて試験を重ねた上で、その中から1株だけ選んで商品化するんです。

※富士五湖と呼ばれる湖のひとつ「精進湖」の側にある「赤池」のこと。通常は水はなく、一定の条件が揃った数年に1度しか出現しないため、幻といわれる。

柳田教授

このワインの酵母は、甲府市のあらゆる場所で403株もの酵母を採取し、その中から選ばれた1株です。

SHOKICHIさん

酵母って、そんなにいるものなんですか?

柳田教授

もう、そこら中にいます。いろんな種類がいるので、求めている酵母を探すのは努力が必要です。採取したものを全て試験して比較して、見つけてワインをつくるのに3年かかりました。

SHOKICHIさん

すごい!やっぱり一本のワインをつくりあげるには、多くの努力と苦労があるんですね。ぜひ、酵母のとれた場所も見に行きたいです。

人生の煌めきとワインを重ねる
SHOKICHIさんの美学

柳田教授

次はシャトー酒折の「甲州ドライ」をどうぞ。ワインコンクールでも受賞歴があり、多方面で高い評価を得ています。2015年ヴィンテージは、2016年の伊勢志摩サミットでも提供されました。

SHOKICHIさん

これもおいしい。ちょっとドイツっぽさも感じます。

柳田教授

甲州ワインとして、非常にレベルが高い仕上がりです。青リンゴやパイナップルのような香りや甲州らしい酸味もありつつ、きちんとコクがあります。

SHOKICHIさん

軽快さや甘味など、ひとつひとつの味わいが興味深いです。この繊細な表情を受け取るのが甲州ワインの醍醐味ですよね。

柳田教授

本当にワインがお好きですね。ハマったのはいつからですか?

SHOKICHIさん

元々は憧れで飲んでいて、おいしさに目覚めたのは25歳のときです。ある方に1988年のシャトー・マルゴーをごちそうしていただいて、ワインってこんなに素晴らしいものなんだ!と。味わいはもちろんですが、背景にある歴史やストーリー性など、ロマンチシズムに魅了されました。たかが1本、されど1本なんだって。

柳田教授

まさに。ワインの魅力って味わいだけではないですよね。

SHOKICHIさん

先生、僕がワインが好きなのは……。時計や宝石って、一生形が残るじゃないですか。お金を出した分が財産になります。でもワインは、高価なものでも飲んだらなくなってしまう。ダイヤモンドを食べているともいえますね。ワインを飲むのって、喜びであるとともに、終わっていく悲しみや切なさをはらんでいます。

僕はこれを人生と重ねてしまう。私たちは夢をもち希望や未来へ向かって歩いてます。でもそれって、死に向かうことですよね。喜びと同時に悲しみへ向かう、ここがワインと同じなのです。僕は、このうたかた的な芸術に心を震わせます。全財産を注いでもいいと思っているくらいです。

歌詞など音楽をつくる上で、何かから影響を受けなきゃいけないと思っていて、ワインを飲むときに一編の小説や映画を味わったような気分になることがあります。

北海道ではワインづくりに触れて、より自分のことも深く理解できるようになったし、ロマンティックやセンチメンタリズムが生まれる過程を見ることで、いろんな答え合わせができたと思っています。すごい成長に繋がりました。今回もこうして、現地に足を運んでお話が聞けて、多くのインスピレーションを受けています。

柳田教授

語りますね。僕は研究しているだけだから。

SHOKICHIさん

いえ、先生のような方々の研究なしには、現代のワインがないわけですから。日本のワインは甲府で始まって、今に至る長い道のりを積み重ねてきた先人の努力があります。僕はそこに感謝しています。

柳田教授

そう言っていただけると、嬉しいですね。

出会うべくして甲府へ
繋がるワインの輪

SHOKICHIさん

今日は、最近のナチュールに関する疑問とか、ワインの産地に流れる川の話とか、まだまだご意見を聞いてみたいことがあるんです。時間が足りない。

柳田教授

さっき、チラリとお聞きしましたが、けっこうマニアックな話をしようとしていますね。時間の許す限り、いくらでも飲んでいってください。

SHOKICHIさん

あ〜、楽しいな。
僕たち、引き寄せられたんじゃないですか?

柳田教授

そんな、言い過ぎですよ。

SHOKICHIさん

ワインって、こうなるんです。ワインを飲んでいたら、会うべき人に会えるというか。

柳田教授

ワインに詳しい共通の友人がいますもんね。あの人たちは驚くほどワインに心酔しているから。

SHOKICHIさん

僕も、先生にお会いできて本当によかったです。

柳田教授

非常にワインに詳しくて、話していて面白い。SHOKICHIさんにも、楽しんでいただけてよかったです。

SHOKICHIさん

ありがとうございました。
これは、また甲府に来なくては!

今回飲んだワイン: シャトー酒折「甲州ドライ」 ドメーヌQ「甲府ロゼスパークリング2021」(甲府之証)

ワイン科学研究センターをたずねる
フォトギャラリー

ワイン科学研究センターの地下貯蔵庫へ。大量のワインとブランデー、シェリー酒が保管されています。
コルクの瓶詰めを体験。
「やってみると楽しいでしょ?」と柳田教授。
甲府のワインを味わうふたり。
センター横には研究用のブドウ畑があります。すかさずスマホで記録するSHOKICHIさん。

山梨大学 ワイン科学研究センター

甲府市北新1丁目13-1
055-220-8604(事務室)
http://www.wine.yamanashi.ac.jp/

ワインで乾杯セット

甲州ドライ2020(白)、甲府ロゼスパークリング2021

4,620円(税込)