こうふの「はっこう」を訪ねて

つくり手と売り手の
垣根を越えてつながって。
夢は甲府でビアクロール

文:小野民 写真:西希

近年、着実にクラフトビールが飲める場所が増えている甲府市内に、この春新たにエールハウスが誕生する予定です。手がけるのは、街の中心から標高差300〜400mの帯那地区でブルワリーを営むデイブさん。この日は店内工事をひと休みして、エールハウスのご近所さんとなるNAP bed and loungeの吉田さんとの対談です。友人同士でもある2人の、甲府の街とクラフトビールについてのおしゃべりが、乾杯から始まります。

クラフトビール好きが高じた先に

行き着いたそれぞれの道

デイブ・プルーカさん

乾杯!

吉田陽佑さん

乾杯!

デイブ・プルーカさん

今日選んだのは、私がつくるObinaのビールの中でも私が好きなタイプの「THE MACK」。これは、けっこうジューシーなタイプのビール。苦味をコントロールしてつくっていて、ホップのフルーティーな味わいになっていると思う。アルコール度数は7.5%だから、ちょっと強めかな。

吉田陽佑さん

ホップをたくさん使うIPAスタイルは、今流行っているよね。デイブがつくるのは、ちゃんと苦味も残りつつフルーティーで、デイブの出身地である西海岸っぽいフィニッシュ。店でも、めちゃくちゃ好評です。

このビールを飲んだ人はみんな、「デイブっぽい」「Obinaっぽい」って言うんですよ。Obinaのビールを扱って1年半くらいかな。定着してきているなあと感じますね。

デイブ・プルーカさん

そういう反応を聞けるのはとても嬉しいです。少しずつ調整して「前よりうまいビールをつくるぞ」と意気込んでつくっていて、お客さんが好きになってくれるのがゴールですから。

ーーデイブさんがビールづくりを始めたきっかけは何だったんですか。

デイブ・プルーカさん

私はもともと、若い頃からクラフトビールが大好き。日本には長いこと住んでいるんだけど、私の好きなビールを紹介しようにも、海外で買ってくると高いでしょう。自分でもいろんな種類のビールが飲みたかったから、山梨でホップづくりもビールづくりもやってみようと思った。そして甲府の帯那を選んで少しずつ環境を整えていきました。今は、自分の家、ホップ畑、そして醸造所もできています。

ビールづくりに関しては、オンラインでアメリカのテクニックも一生懸命勉強して、私がつくるビールもだんだん味がよくなっているかな。お客さんにアメリカのトップレベルのクラフトエールを紹介していきたいんです。

ーー吉田さんの仕事についても教えてください。

吉田陽佑さん

2018年から「NAP bed and lounge」という宿を始めて6年になります。1日1組限定の宿が2軒あって、ひとつは1階がバーラウンジ。そこでビールを出しています。コロナ禍の2022年にはクラフトビール専門の酒屋も始めました。酒屋では常時100種類くらいのビールを売っているから、あまりクラフトビールに慣れていない人にこそ来てほしいなと思います。

カウンセリングシートも用意していて、味の好みとか、自分用かプレゼントかとか答えてもらうんです。もちろんスタッフと話してくれてもいい。クラフトビールは味のバリエーションが広いからこそ、最初の出会いをいいものにしたい。

大手のビールよりは値段もはるし、選ぶのに勇気がいると思うけれど、ハードルを低くしたいというか、成功率を上げたいですね。味だけじゃなくて、つくり手のことも伝えながら、山梨の人たちにクラフトビールを紹介していきたいです。

NAPから徒歩数歩のBEER for NAPPER
デイブ・プルーカさん

たしかにビールフェスで案内を出していても、ちゃんと説明しようとすると情報量が多すぎて、お客さんを悩ませちゃう。わかりやすくコミュニケーションしていく必要は感じます。

ーー全国にたくさんクラフトビールのブルワリーがあると思いますが、そのなかで甲府のブルワリーの特徴などはありますか。

吉田陽佑さん

甲府のクラフトビールは、いい意味で控えめかな。派手に広告を打つんじゃなくて、自分がおいしいと思うものを愚直につくって伝えようとしている……というんでしょうか。

甲府の街の規模だからこそ、その想いはダイレクトに伝わってきます。そのなかでデイブは、ホップもつくってるし生産者としての信頼が厚いですね。

ハコも中身も

自分の手でつくりあげていく

ーーおふたりはいつからの知り合いなのですか。

吉田陽佑さん

甲府のブルワリーの老舗、アウトサイダーブルーイングのレストラン「Hops&Herbs」で働いていたので、実は8〜9年前にデイブとは会っているんです。その頃はまだデイブは大学の先生で、東京から週末によく来ていました。

でも、デイブはぼくのことは知らなかったでしょ。

デイブ・プルーカさん

知らなかった。知り合ったのは、NAPをつくったときかな。陽佑は英語もできるからコミュニケーションも取りやすい。彼のいいところはいっぱいあるんだけど、まずクリエイティブなところかな。私のいろいろなアイデアに対して、クリエイティブなレスポンスをくれるんです。

一番思い出に残っているのは、Obina Brewingをつくるためにクラウドファンディングをしているとき。途中経過がよくなくて心配してたら、彼がInstagramで紹介してくれたり、インスタライブをやってくれたり、いろんなサポートをしてくれました。そのおかげで無事に目標を達成できたと思うし、とても感謝しています。

お互いDIYで自分の店をつくっているから、分かり合えることも多いしね。そうそう、去年ブルワリーの1年記念のイベントのときも、ナップのハンバーガーを頼んで、いい会になって嬉しかったなあ。

帯那にある醸造所と同様、現在は甲府の街中のエールハウスをDIYで仕上げている
吉田陽佑さん

ブルワリーのスタートアップ前後のことは、僕もよく覚えています。ホップファームから始まったんだけど、NAPの常連さんや僕も畑に行って、最初の種を一緒に植えたよね。ほかにも、鹿よけのネットをはったり、いろいろ整えていくときに周りのサポートが手厚かった。それは、デイブがみんなに愛される人柄だから。そういえば、デイブは今年何歳? 僕の一回り以上年上だよね?

デイブ・プルーカさん

60歳。

吉田陽佑さん

やっぱりすごい。 58歳でブルワリー始めるバイタリティーをすごくリスペクトしているんですよ。今、僕が20年先を想像すると引退していたい気持ちもあるのに、そこで全く新しいことを始めている。そこも全部ひっくるめてすごく魅力的な人だなと思います。

それで、そんな人がつくるビールがおいしくなかったら、どうしようとちょっと心配だった(笑)。でも、できてみたらすごくおいしくて。大好きだし、おいしいし、もう完璧!

吉田陽佑さん

僕がお酒を販売するときって、つくっている人がどんな人かを伝えたい気持ちが大きい。スタッフみんなデイブが好きなので、みんなobinaについて説明するときに冗舌なんですよ。

そうすると、お客さんも「そういう人がつくったビール飲みたいな」って 買ってくださる。安くはないけれど、ストーリーに興味を持っていただけると値段のハードルも越えられる。それで飲んでみてもおいしいから、リピートしていくんです。

きっと高め合える

ご近所さんになる期待

春にオープン予定のエールハウス外観
吉田陽佑さん

デイブの店が近くにできることを知っているお客さんには、「ライバルになっちゃうんじゃないか」と言われたりもするんですけど、そうは思わないんですよ。いろんな場所、いろんなシチュエーションで飲めて選択肢が増えるのは、甲府の街にとってもすごくいいことだと思います。

お店は、いつオープン予定なんだっけ?

デイブ・プルーカさん

できればゴールデンウィーク前にはオープンしたいな。

帯那でビールをつくりながら、カフェもやっているけれど、ほとんどの人が車で来ているから、その場で飲めない人が多い。NAPのようにObinaのビールが飲めるところもあるけれど、甲府の街中に自分の店もあれば、もっとたくさん飲んでもらえるだろうなとずっと思っていました。

甲府のクラフトビールの醸造所は5つくらいだから、私にとってはまだまだ少ない。まちづくりの観点から考えて空き家を活用したい気持ちもあったし、ちょうどいい物件に出合えたからチャンスだと思って、自分のお店をオープンすることにしました。

吉田陽佑さん

デイブは西海岸の感覚だから、甲府のクラフトビール屋さんを「少ない」って言ったけれど、僕的には増えてきたなあって感覚。

本場では「ビアクロール」といって、ビアバーをクロールするみたいに巡っていくんですよ。ビアクロールイベントなんかもやるのかな。甲府でも、全部のブルワリーをつないでスタンプラリーをするとか、ビールの街みたいになったら楽しいですよね。今でも、東京から目当てのブルワリーにわざわざ飲みに来る人はいるけれど、みんなで一緒になればもっと盛り上がると思います。

デイブ・プルーカさん

楽しみだねえ。他にも陽佑といろいろ始めたい。アメリカ人はビアクロールが大好きだから、インバウンドのツーリズムのプランも考えられるんじゃないかな。「ビアクロール甲府」いいねえ。

吉田陽佑さん

おお、それはいいですね。

デイブ・プルーカさん

日帰りもいいけれど、最後、ナップに泊まれば完璧。

吉田陽佑さん

今までにも、NAPに泊まったお客さんを帯那のデイブのホップ畑に連れて行ったこともあったよね。そういうのをパッケージングできたら、もっといい。

デイブ・プルーカさん

陽佑はイベントのエキスパートだから、どんどんコラボレーションしていきたいよ。

でもまずは、エールハウスのマネージャーになる人に来てもらわなくちゃね。たぶん最初は私がやってみることになりそうだけど……。

吉田陽佑さん

デイブ、いったい何人いるんだよ〜(笑)

僕は、甲府で過ごす人たちが、昼に楽しめる活動を増やせればいいなと思っています。NAPは夜のイメージが強いけれど、昼からビールを飲めたり、他にもできることを増やしていきたい。お店があるこの柳小路全体も、盛り上げていきたいですね。

※こうふはっこうマルシェ2024には、NAPも出店!もちろん、Obina brewingのビールも出揃うので、ぜひ実際に飲みに来てください。

帯那ブルーイング(Obina Brewing)

山梨県甲府市下帯那1908-1
カフェ営業は土・日:11:30-16:00
※甲府市丸の内のエールハウスは4月末までを目処にオープン予定
https://obinabrewing.com/

NAP bed and lounge

山梨県甲府市中央4-3-25
電話:080-9867-2589
※詳細は下記URLを参照してください。
http://nap-bed.com

BEER for NAPPER

山梨県甲府市中央4-3-2
火曜日定休
営業時間:月曜日14:00-20:00/その他11:00-20:00
Instagram@beer_for_napper