こうふの「はっこう」を訪ねて

好きが高じて作り手に。
気軽にお酒を楽しめる、商店街の醸造所

PERSONA BREWERY 髙橋添さん× SPRING WINE 佐野いずみさん
文:小野民 写真:西希

ビールが好き、ワインが好き。その気持ちが高じて、今や醸造の道に足を踏み入れた2人の女性がいます。ペルソナブルワリーとスプリングワインの間は徒歩3分。ご近所同士となり、普段からそれぞれの醸すお酒を楽しんでいる2人が、発酵が深くかかわる酒づくりの苦労や魅力について語らいました。

酵母の性格で全然違う

ビールを仕込んで見えてきたこと

佐野いずみさん

ビールとワインは発酵してできているとはいえ、原料も仕込みの期間も大きく違いますよね。添さんは経験を重ねてきて、醸造についてはどのように感じていますか。

高橋添さん

今、うちの店では10種類くらいの酵母を使っていて、タンクが小さいこともあって、計算してみると大体120回くらいはすでに醸造しているんです。毎週仕込んで、約1ヶ月でビールはできますからね。

ホップをはじめとした材料にも左右されるけれど、やはりビールの仕上がりに一番影響を与えているのが酵母の要素だと思います。

酵母ごとにいろんな性格があって、添加して12時間以上経ってから発酵し始める遅咲きの子もいれば、逆もあり。超食いしん坊でありとあらゆる糖を食べ尽くしてしまうのもあるんですよ。

高橋添さん

呼吸の仕方も、腹式呼吸のように一気に吐き出していたりしてね。そういう様子を日々観察しながら、結果として「こういうビールができてくるんだ」と完成を見るのが楽しいですね。それは生き物を扱っているからこそだと思います。

時々タンクに向かって話しかけたくなりますよ。それぞれ個性のある酵母の働きを感じるのはかわいいし、楽しいです。

佐野いずみさん

自分が「こういうビールをつくりたい」と思ったときには、その味にどうやって近づけていくんですか。

高橋添さん

例えばどの酵母を選ぶかといえば、酵母メーカーの説明書のようなものを読んで仕入れているんです。でも、できあがったビールがどんな要素でその味になったのかは、気が遠くなるほど回数を重ねないとわからない部分もあると思います。

私がつくりたいビールは、乾杯に似合う明るいイメージ。しんみりじっくり飲むよりは、デイリーに飲んでほしい。ですから、私のビールは自己主張が強いものはあまりないかな。

香りをもっとつけたいならホップを入れればいいとか、いろいろやり方はあるんですが、まずは健全が第一で、基本を大切にしています。

あの工程の手を抜いたからこの味になってしまったのかもしれないって、悩みたくないですよね。だから基本の部分はしっかりコントロールして、後は少しずつ変えたい部分だけ変えていくんです。

でも、なかなか思い通りにはならないのよ。思い通りになったビールはあるけども、また同じようにやったから成功するとは限りません。

佐野いずみさん

なるほど。それが発酵のおもしろいところでもありますね。

畑から始まる
ワインづくりは長距離走

高橋添さん

ワインはといえば、仕込むのは1年に1回だから、ビールとはだいぶ違いますね。

佐野いずみさん

はい、そして味わいがかなりぶどうに左右されるんですよね。だから、全く同じ味わいのものを毎年つくろうとしても難しいですね。

工業製品ではなく「農産物が発酵するもの」ならではで、私もそこがおもしろいところだと思います。赤、白、ロゼに加えて最近はオレンジワインも流行っていますね。それに甘口辛口といった味わいの違いもありますし、いろんなスタイルのワインがあります。

ぶどうの品種、熟成はタンクにするのか樽にするのか、酵母は何にするのか、そういった味わいが変わる要素を精査して、自分の理想とする味に近づけていけるのが魅力です。

佐野いずみさん

私が目指すワインも、添さんの目指すビールと共通点があります。思わず聞いていて拍手してしまいましたが、健全なことは大事ですよね。その上で高品質なワインをつくることは、絶対に目指したいです。

今、スプリングワインのラインナップは3種類だけですが、今後はアイテム数も増やしていきたいです。今は甲州とマスカット・ベーリーAという山梨ならではのぶどう品種でワインをつくっていますが、シャルドネやメルローといったヨーロッパ系の品種も育てていて、2~3年後には新商品としてリリースできればいいなと思います。

日常で楽しめるワインからプレミアムなワインまで、タイプの違うワインをつくりたいですね。

©2023 SPRING WINE
高橋添さん

畑は甲斐市と北杜市にあるということは、移動が大変ですね。

©2023 SPRING WINE
佐野いずみさん

そうですね。醸造期間中以外は畑にいて、1月2月はちょうど剪定の時期です。畑に行って寒すぎて心が折れることもあるんですけど(笑)。

自分なりに計画を立てながら、天気や風の強さなど、その日のコンディションを見ながら出かけて行っています。

委託醸造先の機山洋酒工業には、非常勤で畑や工場の仕事を一緒にさせてもらっています。それと並行して自社畑の管理やワインの販売の仕事、醸造所オープンの準備などと日々の仕事に追われていますが、1年を通したブドウ栽培からのワインづくりにとても充実感を感じています。

それぞれのお酒で乾杯
ビールもワインも香りが醸されて

佐野いずみさん

私はビールに詳しいわけではないんです。好みといえば、すっきり系ですかね。ペルソナブルワリーでは、ゆず、桃、季節限定のフルーツフレーバーのビールをいただくことが多いかな。先日シャインマスカットのビールを飲んで、甘さはないんだけれど、しっかりとマスカットの香りがして、とてもおいしかったです。

高橋添さん

今日飲んでいただいているのは、ホップをたくさん使ってつくるIPAだから、さわやかですよね。

佐野いずみさん

はい、すごく香りが華やかでいいですね。ワインでそうするように、まずは鼻で匂いを嗅ぐ癖がついているので、どんなお酒を飲むときも、香りに注目しちゃいますね。

高橋添さん

ワインをグラスに入れて眺めると、色がきれいだなぁってうっとりしますね。

香りを嗅ぐと甘いのかと思いきや、そんなに甘くなくてすっきり辛口。普段飲むときはおつまみがほしくなっちゃうんだけれど、今日のワインは、じっくりこれだけで楽しみたい味です。

佐野いずみさん

甘い香りは樽熟成でついているのかなと察します。スタイルとしては、辛口ですが、バニラ、カカオ、チョコレートなどの香りが感じられると思います。

高橋添さん

本当にそういう感じ。ワインもビールも香りはとても大事な要素。佐野さんのワインを飲んで、香りと味のギャップを味わうのは楽しい体験だと、あらためて感じました。

佐野いずみさん

そうですね。今日はつくり手の想いとしても共通するところがあると、知ることができてよかったです。生産量が限られてなかなか機会がありませんが、わたしたちのビールとワイン、それぞれの共通点も違いも楽しみながら、一緒に味わってもらえたら嬉しいですね。

PERSONA BREWERY

山梨県甲府市朝日2-18-4
055-244-6308(090-4014-8983)
(木・金)17:00~21:00(土)15:00~21:00(日)13:00~19:00
月〜水曜日定休
※定休日、営業時間は変更になることがあります

株式会社スプリングワイン

山梨県甲府市朝日4丁目5番3号(2023年3月から山梨県甲府市朝日5丁目5番8号の仮店舗で営業)
電話:055-231-5601
営業時間:12:00~18:00

営業日:土曜日・日曜日(農繁期、醸造期は休業)

https://springwine.jp/